一般社団法人エゾシカ協会

アイヌに学ぶエゾシカ料理


塚田宏幸 (バルコ札幌)

 先日、札幌で「料理人の休日レストラン」というイベントが開かれた。生産者・料理人・消費者をつなぐイベントで、今年で3回目。様々なプログラムのうち、私はトークショー「食べ学び講座」に出演した。テーマは「アイヌの食文化」である。フードライターの小西由稀さんの進行で、アイヌ民族博物館(白老町)専務理事の村木美幸さんとディスカッションした。

 村木さんとは初対面だったが、私にとっては20年も前から一方的に尊敬してきた偉大な先生である。

 まだ料理人を志す前、父の影響で山菜やキノコ、野生ハーブに関心を持ち、もっと深く知りたいと思っていた時、『聞き書アイヌの食事』(農文協、1992年)という本に出会った。

 アイヌはかつて自然と共生し、自然から糧を得てきた北海道の先住民族。あらゆるものに神が宿ると考え、必要以上に自然の恵みをとり尽くすことはない。また、食材の加工と保存の知恵にも長けている。

 この『聞き書アイヌの食事』には、アイヌがアイヌモシリ(北海道)で培ってきた知恵がぎっしり書かれていて、特に食材の利用法・保存法が興味深い。一般的にはおひたしや天ぷらくらいしか思いつかない山菜類を、乾燥させてから料理するなど、今でも私が新たな調理法を思いつくヒントが満載なのだ。

 そんな素晴らしい料理書の著者の一人が村木さんだった。トークショーの間じゅう、私はワクワクしっぱなしの時間を過ごした。

 この日は「オハウ」を取りあげることになり、私が調理を担当した。アイヌ料理の中での主菜で、具だくさんの汁物である。具材はエゾシカのスネ肉、塩漬けのラワンブキ、乾燥したコゴミ。塩だけで調味する。

ユクオハウ 調理/塚田宏幸

 

 「エゾシカのことをアイヌ語ではユク(yuk)と呼びます。だからこれはユクオハウ」と、村木さんは説明された。具材によって「鮭オハウ」になったり「山菜オハウ」になったり、バリエーションがあるそうだ。続けて「エゾシカや鮭は、アイヌの生活にとって大切なものだった」と話してくださる。

 「自然の恵みを必要以上にとり尽くさない」というアイヌの考え方に、エゾシカとの共生を目指す現代の私たちが学ぶべきことは多いと思う。

 いまから100年ほど前、明治新政府が北海道にシカ肉の缶詰工場を作って海外にシカ製品を大量輸出し出した時、エゾシカの頭数は一気に絶滅寸前まで減少した。頭数は再び増えたが、これから先、とり尽くさないためのコントロールも重要になってくる。

 さて、「料理人の休日レストラン」はこんなキャッチコピーを掲げている。

「北海道でどんな食を選び食べていくかは、北海道の明日をどう生きるかにつながる。北海道の食で、もっと元気に楽しく! 」

 先住民族に学び、よい明日を作っていきたいものだ。


エゾシカ協会ニューズレター37号(2014年10月)に掲載

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