一般社団法人エゾシカ協会

エゾシカ肉の霜降りを探す


塚田宏幸 (バルコ札幌)

 鹿肉といえば、イメージにあるのは脂身の少ない赤身のお肉。脂肪と肉は完全に分離している。毎日野山を駆け回って生活したおかげで、アスリートのようなお肉になったのだろうと勝手に想像する。

 ひとくちに鹿肉と言っても、雄なのか雌なのか、年齢はどれくらいなのか、産地など、様々な要件によって味わいは変わってくる。もちろん部位による違いだってある。他の畜肉と同じで、ロースやバラ、ヒレ、モモ、スネ、掃除は手間だが心臓やレバー、脳や腸など、部位によって、適した食べ方や調理法がある(そのことはまた後日書くとして……)。

 ただし日本人が好む「霜降り肉」がエゾシカでは見られない。「どこかにないのか? ないのか!」とあらゆる部位をくまなく探していたら、一カ所だけエゾシカにも霜降り状の部位を見つけた。それはタン(舌)。

 この業界でタンといえば、ほぼ牛タンを指す。その牛タンと比べると、エゾシカのタンはとても小さい。一般的な牛タンの重量は、1本(タンは「本」で数える)1200g前後なのだが、エゾシカのタンはわずか150g前後しかない。1頭のシカからほんの少量しかとれない希少部位なのだ。その希少な部位のさらに限定された場所に、「霜降り肉」があった。

 お肉に詳しい方ならご存知だろう。タンは、舌先から根元へ向かうにつれて柔らかい肉質となり、価値も高まる。中でも「タン元」と呼ばれる根元の部分は、焼肉屋さんでは「上タン」、もしくは「特上タン」の名前で供されている。エゾシカにおいて唯一の霜降り状の部位とは、何とこのタン元に存在する。

 タンの処理は少々手間だ。周りについている皮をぐるりと剥く作業。もともと剥きにくい場所なのだが、エゾシカのタンは小さいのでなおさら作業しづらい。根気よく剝いてやると、まさに霜降り状のおいしそうなお肉が現れる。

 まずはサッと炙って塩で食べてみる。ウーーン! 他の部位では感じられない、エゾシカの肉と脂の混じったこってりした風味。単純にこれだけでうまい。

 この貴重な部位の特徴を、際立たせられる料理は何だろう? あれやこれやと考え、何度となく試作した結果、現時点では、塩と香草で丸一日マリネした後、火入れとスモークを施した「鹿タンのスモーク」がベストだという結論に至った。これを厚切りにし、サッと炙って提供する。だれにとっても初めての料理だから、お客さんはみんなおそるおそる口に運ぶ。が、これはイケると分かるや、どんどん箸が進んで、ちょぴりしか出せない鹿タンスモークはあっという間にお皿から消えてしまう。

 エゾシカ肉で霜降りを探すなんてナンセンス、とお考えの方もいらっしゃるかもしれないが、私は、この発見がまたひとつ新しいエゾシカ肉の魅力を教えてくれた、と思っている。ひょっとしたら「北海道の焼肉屋では牛タンより鹿タンだ!」なんて日が来るかもしれない。


エゾシカ協会ニューズレター36号(2014年4月)に掲載

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