赤坂猛「シカ捕獲認証制度(DCC)への歩み」
  • あかさか・たけし
  • 一般社団法人エゾシカ協会代表理事。

第11回 「人口縮小社会における野生動物管理のあり方」―日本学術会議から環境省への回答書―

本連載では、これまでシカ捕獲認証制度(DCC)の創設に至った経緯や「鳥獣専門官」の育成等に関する北海道や先進県の取り組み、更には環境省の抱える課題等を取り上げてきた。前回は、欧米の野生動物行政を支える専門官として、カナダ・アルバータ州政府やスイス連邦の制度を紹介したところである。最終回となる本稿では、環境省自然環境局の最新の「動き」を取り上げたい。

2018年6月、環境省自然環境局は、日本学術会議に野生動物管理のあり方に関する審議を依頼した。依頼文書の標題には「人口縮小社会における野生動物管理のあり方の検討に関する審議について」とある。

依頼文には、「…科学的な野生動物管理システムは確立されているとはいえず、その担い手となる人材も十分に育成・確保できていない状況」とある。そのうえで、「科学的野生動物管理システムの具体的なイメージとシステム構築にあたって必要な要件の整理」や「現場における科学的な判断・実践、データの収集・活用、研究を担う人材養成システムについての具体的提案」等に関する検討を依頼している。環境省の「野生動物管理」への本気度を視た思いが、私にはする。

日本学術会議では、早速14名の専門家からなる検討委員会を設置し、2018年8月から翌2月までに6回の審議を重ねた。委員等には、本協会の会員である梶光一さんやDCC委員会の鈴木正嗣さん、横山真弓さんおよび伊吾田宏正さんの名がみられる。検討委員会は2019年2月に公開講演会を主催するなどして、2019年8月に「人口縮小社会における野生動物管理のあり方」と題した回答書を提出した。

令和元年(2019年)8月1日 日本学術会議「人口縮小社会における野生動物管理のあり方」

回答書では、ニホンジカやイノシシなどの野生動物による深刻な諸問題を洗い出し、望ましい野生動物管理とその担い手(教育)等に関する5つの提言を認めていた。ここでは、それら「5つの提言」から『野生動物行政を支える担い手(専門官)』に関する事項を紹介する。

まず、提言(1)では「基礎自治体の専門組織力の強化」として、野生動物管理に際しては「市町村と都道府県が計画・実施・モニタリングにおいて緊密に連携」する必要があるとし、「それらの業務を担う専門職員として市町村に鳥獣対策員、都道府県に野生動物管理専門員を配置」することとある。更に、それらの専門職員には、「農政・林政担当職員と協働するしくみを構築すべき」としている。

明快な提言である。市町村には鳥獣対策員を、都道府県には野生動物管理専門員の配置を明記している。野生動物管理専門員については、提言(5)で「野生動物管理と地域社会の諸問題を統合的に捉えて、現場で解決するための科学的な計画立案、実践、モニタリングを担える人材」とある。更に、そのような人材の養成が急務なことから、「国は、大学・大学院レベルの新たな専門教育の課程と研究の場の創設・強化を支援すべき」と明言している。

実は、上記の提言と同様の内容が、1999年の鳥獣保護法の改正に伴う衆議院からだされた附帯決議の「第5」にある(連載・第7回参照)。「第5」には、「都道府県における早急な調査研究体制の整備、野生鳥獣保護の専門的な知識・経験を有する人材の確保及び育成、(略)」について、国は「関係都道府県に対し、積極的に助言、指導及び財政的支援を行うこと」とある。この附帯決議は、その後の20年余据え置かれてきたようである。環境省が真摯に対処してきたならば、このような「提言」はなかったはずだ。環境省自然環境局が日本学術会議に諮問した結果の回答書(2019年8月)であり、5つの具体的な提言である。この度の「5つの提言」が、1999年の附帯決議と同様に据え置かれることはありえない、と思料している。

日本学術会議の「回答書」により、永年、野生動物行政が抱えてきた「課題」の多くが解決されてゆくと思いたい。環境省の真摯な対応を凝視していかねばならない。(了)


初出 エゾシカ協会ニューズレター第50号(2021年3月)