赤坂猛「シカ捕獲認証制度(DCC)への歩み」
  • あかさか・たけし
  • 一般社団法人エゾシカ協会代表理事。

第9回 兵庫県庁の挑戦―鳥獣専門家の育成・配置―

国民の共有財産である野生鳥獣の適正な保護管理に際し、1999年、立法府は行政府に「都道府県の調査研究体制の整備や鳥獣専門家の育成・配置に対し、国は積極的に助言、指導及び財政的支援を行う」よう附帯決議している(第7回、第8回)。しかし、この20年余、附帯決議に対する環境省の明確な動きはない。このようななか、兵庫県庁は2007年より他の自治体の先陣を切って「鳥獣専門家の育成及び配置」に取り組んできている。兵庫県庁の挑戦を紹介する。

兵庫県森林動物研究センターと業務部

兵庫県庁は、2007年に丹波市に「兵庫県森林動物研究センター」(以下、センター)を設立した。「科学的で計画的かつ本格的な野生動物管理の研究とともに普及啓発を行なう研究機関」(横山 2017)とされ、組織は研究部と業務部の2部体制とした。

兵庫県森林動物研究センター

業務部には「森林動物専門員」が配属され、研究部の「調査研究の成果」に基づく種々の普及啓発活動を担っている。同センターが、野生動物の純然たる調査研究機関とは一線を画していることを強調しておきたい、と思う。

森林動物専門員の育成・配置、活動

兵庫県庁は、先述したセンターの設立と合わせて「森林動物専門員制度」も創設し、5名の県庁職員を森林動物専門員(以下、専門員)としてセンターの業務部に配置した。

まず県庁職員(農林業職・獣医職・畜産職)から5名を選抜し、半年間の研修(野生動物に関する知識の習得や課題の把握と実習)の後、センター準備室に配属。その後1年間は、野生動物問題の現場に出向きながら実態を把握、そして技術試行などを経て正式に着任(同前)とした。専門員の育成に1年半をかけていたことも強調しておきたい。それ以降の専門員の育成については、毎年1名程度が人事異動するため、新任の専門員は、研究部の研究員と専門員で約2か月間の集中研修により育成しているという。

専門員の「普及啓発業務」は多岐に及んでいる。野生動物現場の被害状況の把握をはじめ、生息状況のモニタリング調査、サルやツキノワグマ等の出没対策の現場支援、集落ぐるみの獣害対策、各種研修会の開催など地域に根差した多様な業務をこなしてきているという。

森林動物指導員

兵庫県庁は、県内10の県民局に「森林動物指導員」を配置し、センターの森林動物専門員と連携を取りながら、主に野生動物の生息地管理(森林整備)に取り組んできている。

人工林の間伐や広葉樹の植林の促進など野生動物の生息環境を考慮した「森づくり」をめざす、という。センターと各県民局からなる「県下に広がるネットワーク」(センターHP)が多いに期待される。

最後に現在、兵庫県では、センターには森林動物専門員6名が、県民局には森林動物指導員計22名が配属されている。すべての鳥獣行政機関、なかんずく環境省は、兵庫県庁の「森林動物専門家及び同指導員の育成・配置」をどのように診ているのであろうか。

次回は、カナダ・アルバータ州の野生動物専門官制度を取り上げる。


引用文献


初出 エゾシカ協会ニューズレター第48号(2020年3月)