伊藤英人の狩猟本の世界

264.『知って楽しいカモ学講座』嶋田哲郎著、森本元監修、緑書房、2021年

262.『これからの日本のジビエ』押田敏雄編、緑書房、2021年

本格的なカモ・ガン・ハクチョウの生態の解説。越冬と渡り、その調査法が主体で、狩猟、食味、調理など文化的側面は載っていない。カモ学というからには古来より盛んに行われている鴨猟について取り上げてほしかった。

留鳥のカルガモ以外は健気に極東ロシアからはるばる渡ってきているので、ちょっと食べづらく感じるかもしれないが、それだけのポテンシャルを秘めた肉と脂肪は魅力的である。

カモはどんくさい体でのんびりしているように見えるが、数千kmの渡り、その燃料となる脂肪の蓄積、群単位での猛禽類への警戒など、驚異の能力をみせる。この辺の話はタイトルのとおり「知って楽しい」。また、ガンカモ生息地周辺には食害や踏みつけなどの農業被害が発生しており、希少種保護との兼ね合いでも難しい問題になっている。

渡りについては、移動が地球規模のため、国を跨いだ研究となる。北方領土やウクライナ侵攻など、ロシア周辺の政治情勢が研究の妨げにならないか心配になる。