伊藤英人の狩猟本の世界

231.『鳥と人間の文化誌』奥野卓司著、筑摩書房、2019年

231.『鳥と人間の文化誌』奥野卓司著、筑摩書房、2019年

鳥はファンが多いせいか文化系の本がよく出る。本書は古典的な文化史・文化誌モノのようにおカタくなく、鵜飼いや鷹匠などの伝統文化についても現在の状況や著者(山階鳥類研究所所長)の率直な見解を表明している。「花鳥風月」に顕れる日本人の美意識から探り、日本人は鳥と比較的「距離を置いた」関係にあるのではないかと推測する。ニワトリに触りもしないが地鶏を自然飼育とあがめる、鳥インフルエンザが発生すると大量に殺処分するが愛護的な反対意見は乏しい、といった不思議な矛盾が指摘される。これこそ現代的な鳥と人間の文化誌である。

バードウォッチング、鳥撃ち、鳴き合わせ会、鳥貴族など鳥とのさまざまなかかわりかたがあるのに、一部は(特にエサやり・鳴き合わせ・野鳥飼い)非難の対象になることに疑問を呈している。

カバーの絵は山本太郎氏の「白翁群鶏図」。内容との関係が絶妙。