伊藤英人の狩猟本の世界

280.『狩り狩られる経験の現象学』菅原和孝著、京都大学学術出版会、2015年

280.『狩り狩られる経験の現象学』菅原和孝著、京都大学学術出版会、2015年

人類学者・菅原和孝氏の集大成の一つ。研究対象はアフリカ南部のグイ・ブッシュマンで、優れたハンター集団である。ここの野生動物は人をも襲うため、彼らはハンテッド(被食者)でもある。親族が食べられた経験と伝承から、特異で密接なヒト—動物関係が生まれる。獲物を追跡してヤブに潜むさまは、捕食動物そのものである。

人間が最強ではないという事実を改めて感じざるを得ない。狩猟は、人間が強いことを証明する行為、というわけでもない。ただ食べ、たまたま生きている。この境地に到達すれば、人間は獣に戻れるかもしれない。