伊藤英人の狩猟本の世界

274.『日本のシシ垣』高橋春成 編、古今書院、2010年

274.『日本のシシ垣』高橋春成 編、古今書院、2010年

人と獣の物理的な境界線が、シシ垣という人工物である。人手と維持管理が必要で、日本各地に残ってはいるものの、ほとんどは現役ではない。戦わずして棲み分けるなら理想的な関係だが、やはりそうはいかず、シシ垣を利用して陥穽をつくったり、猟師を雇ったりしている。

長大な建造物のため建造コストは並大抵ものものではなかったが、それでも地域で協力して造らざるを得なかったことが獣害の酷さを証明している。

現在も被害は続く。電柵や大規模柵がシシ垣と同様の役割を担い、維持管理を負担し、管理捕獲者が捕獲作業に勤しんでいるところはあまり昔と変わっていないようである。人が武器や柵を改善したにもかかわらず、勢力を強める獣側がすごい。

シシ垣は人と獣の関係を伝える貴重な遺跡であり、貧しい農村が団結して行った獣害対策の記録はたいへん興味深い。「シシ垣ネットワーク」の活動が盛り上がってほしいと思う。できれば獣害対策ハンターの歴史も調べてほしい。獣害を防ぎつつ肉や毛皮をもたらしたとすれば喜ばれたに違いない。