伊藤英人の狩猟本の世界
291.『ハラル食品マーケットの手引き』並河良一著、日本食糧新聞社、2013年
日本ではまだなじみのないイスラム圏に企業が進出する際に参考となる、マーケットの現況や動向、宗教的に注意すべき事項などをまとめたもの。企業向けではあるが、ハラル(イスラム教において不浄でない食べ物)、ハラルと認められないケースの説明などを通じて、多くの人にとって未知であるイスラムの食のことがよくわかる。
ハラルは宗教のルールであり、国の決めた法とか、根拠とか、理屈ではない。どの食べ物がハラルかハラム(不浄とされるもの)かは神が決めており、問答無用でそういうものである。その理由を聞くことさえ禁止なのである。
イスラム式屠殺についても詳しい。国ごとに多少の差はあれど、ブタが不浄(ハラム)なこと、イスラム式屠畜が厳格なことは共通している。ウシやヒツジなどのハラルに対し、タスミヤという宗教的言辞を唱え、メッカの方角を向いて処理する。このとき、電気ショックは推奨されない。ナイフを用い、ひとつの動作で気管・頸動脈・頸静脈を切断する(p.40)。こうしてハラルの肉となり食される。イスラム式屠畜を遂行し、ハラル認証を受けるには、どうしてもイスラム教徒の協力が必要である。
痛み至上主義からすれば、イスラム式屠殺は気絶させずに刺すところが残酷ということになるのだろうが、本当に残酷なのだろうか。イスラム式屠殺は儀礼に位置づけられ、祈りも含まれており、敬意がある。「痛み」というひとつの基準では引っかかるところがあるかもしれないが、宗教固有の論理があり、それについて外部が批判するものではないと思う。当然、ムダに傷つけたり、粗末に扱うことはしない。さまざまな文化を許容できないものだろうか。