伊藤英人の狩猟本の世界

205.『人類は噛んで進化した』ピーター・S・アンガー著、河合信和訳、原書房、2019年

205.『人類は噛んで進化した』ピーター・S・アンガー著、河合信和訳、原書房、2019年

歯と進化の関係。人類化石の歯の形、キズ、使い方から、人類の進化や当時の食環境を探る。しかし、それがまたたいへんに難しい。同所的に生息する2種のサルは、似たような歯をもちながらも食性が異なる。実際われわれも、せんべいを噛める歯でタピオカをつぶしている。人類はいろいろなものを食べられる。こうした広範な食性のおかげで、ヒトは生息地を際限なく拡大し、進化を遂げてきた。

歯は、形も機能も複雑である。イノシシの牙は用途が特化しているためわかりやすい。上の歯で常に研いでおり、刃物のように鋭く切れる。しかし、イタチの歯はそれほど尖っていないのに、皮膚を突き破る。われわれは、肉を食べるときにほぼ無意識で歯を使っているが、歯の使い分けや力の入れ方の工夫などを随時しているのであろう。

さて、まだ試していないが、接近戦における咬みつき攻撃を考える。私は歯を、「体重」に次ぎ、「爪」よりも優れた、数少ない武器と認識している。咬みつきは皮膚と血管を切断できるので、有効な戦法である(感染症等には注意が必要)。獣にかなり接近するリスクはあるものの、はなはだ肉食獣らしい攻撃で、人間らしくはない。現在、野生動物にも動物福祉の話があり、残酷な止めさしは批判されることがある。しかしこれは人間の話であって、生きたままのガゼルを食べるライオンなどに適用されるわけがない。とすると、咬みついて肉食獣になることによって、この問題は解決されるのか?

そもそも肉食獣であることを忘れているのか?

咬みつけば思い出すかも?