伊藤英人の狩猟本の世界
186.『食べられる生きものたち——世界の民族と食文化48』「月刊みんぱく」編集部編、丸善出版、2012年
タイトルの「食べられる」は被食の意。雑誌「月刊みんぱく」に連載されていたコラムの書籍化。民族学者が調査地で体感した食文化をつづる。対象は動植物・家畜・無脊椎動物まで幅広く、動物観に豊かな地域性があっておもしろい。
ときに狩猟法にまで話が及ぶ。印象的なのはインドネシアのクスクス猟。森を帯状に数十メートルも伐採し、限定的に残した樹上の獣道にソヘというワナをしかける。遷移の進行が早い熱帯ならではの大規模な人為的攪乱である。こんなバレバレなワナにどれほどのクスクスがかかるのか気になる。ふつうは、ワナの存在を隠すために、しかけた場所をできるだけ原状回復するのが基本中の基本である。しかし、獣道への誘導のために障害物やエサをおいて人工的に改変したい衝動が常にある。これだけの規模の改変でもワナが有効なら、もっと思い切ってワナ周辺をいじくってもいいのかもしれない。