一般社団法人エゾシカ協会

籠田勝基さん 「衛生マニュアルが実現するエゾシカ肉の有効活用」


 エゾシカの有効活用は、保護管理および被害防止と共に、シカとの共生を目標とした重要な方策として、エゾシカ協会が設立当初より主張してきたところである。有効利用の一環として、食肉としての利用を促進するための方途について協会は既に平成13年7月に、道に対して「エゾシカの有効活用に関する要望書」を提出し、又本年5月の協会定期総会においても「エゾシカ肉の衛生管理体制の確立について」道に要請すべしとの決議が行われた。
 野生獣であるエゾシカを食肉として利用するためには、野獣肉に対する食文化の醸成と需要の拡大および流通システムの確立などの問題を解決することが重要である。しかし現実的に食肉として利用されている現状では、なによりもまず捕獲個体の解体処理に関する衛生管理体制の確立が緊急に行うべき条件と思われる。
 以上のことから、エゾシカ肉の安全性を確保し、北海道特産品としての商品価値を付与するために実施すべき事柄について筆者の考えを述べることとする。

「野獣肉の衛生指導要領」の見直し

 現在エゾシカを含め、野生鳥獣の解体処理については、食肉利用を目的とした法的規制は存在せず、商品として販売される場合だけ「食品衛生法」が適用されている。食肉の安全性を考慮すれば、牛や豚などの家畜に適用される「と畜場法」の適用が理想的であるが、主として狩猟により捕殺されるエゾシカに同法を適用することは極めて非現実的であり不可能なことである。
 現在野生鳥獣の肉利用を目的として解体処理をする場合は、道の定めた「野獣肉の衛生指導要領」が唯一のより所となっている。同要領によれば、捕獲した動物は、内臓摘出を行わずに個体のまま、食品衛生法に基づく食肉処理業の許可施設に搬入することとされている。エゾシカ肉を食用として利用するためには、厳冬期でも捕獲後30分以内に内臓摘出と放血を行わねば、肉の品質を著しく低下させ商品価値を失うことが確認されている。又捕獲後1時間以内に処理場に搬入することも事実上不可能であることからも、上記指導要領は著しく現実性を欠くものである。以上の理由から、本道特産物としてのエゾシカ肉に商品価値を持たせるためには「野獣肉の衛生指導要領」の見直し再検討が必要である。

処理場の増設等有効利用促進のための環境整備

 商品としてのエゾシカ肉は、食品衛生法の適用を受けるが、食肉となる前の解体処理については、前述したように法的規制は存在しない。そこで、処理場に搬入されたエゾシカを、商品として流通させるためには、食品としての製造工程中の重要ポイントを管理して、危害発生を未然に防止するHACCP(危害分析重要管理点)方式を取り入れた衛生管理マニュアルに基づいて解体処理並びに加工処理されることが必要である。
 「野獣肉の衛生指導要領」では、加工処理に関しては「食品衛生法施行条例」に定める「公衆衛生上講ずべき措置に関する基準(別表第一)」を遵守することとしているが、解体および加工処理全般に関して具体的な衛生管理マニュアルを策定し、それによって全工程が管理されることが現実的である。なお本マニュアルは、食品の安全性についての責任を持つ行政組織(道食品衛生課)の承認を得たものであることが望ましい。
 食肉の安全性確保については既に「製造物責任法(PL法)」の施行や食品期限表示制度の導入などが行われており、エゾシカ肉においても、これらの趣旨に沿った、捕獲月日や捕獲場所の表示など、食品の追跡性(トレーサビリテイー)を明らかにするべきである。

エゾシカ肉の処理加工衛生管理マニュアルの策定

 エゾシカの有効利用が進まない理由の一つとして、解体処理場が少ない事が挙げられる。折角捕獲したエゾシカも、処理場までの距離が遠いために、十分利用されずに放棄されたり、処理場以外の場所で解体され、食中毒発生の原因となる例などが認められている。この様な状況を改善するために、解体処理場の適正な配置および捕獲現場から処理場搬入までに個体を一時保管する保管庫の設置とその回収システムについての検討などが、エゾシカの有効利用促進にとって重要な検討課題となろう。

 以上エゾシカの食肉利用促進のための問題点について述べたが、近年牛のBSEに類似するシカの伝達性海綿状脳症であるCWDの発生がアメリカとカナダで報告され、大きな問題となっている。BSEの発生地である本道でも当然重大な関心を持つべき問題であり、緊急にエゾシカのCWDの調査を実施すべきである。
 エゾシカ肉の衛生管理については、現状のような、食肉業者などの自主的方法では実効性に乏しく、安全上の不安が大きい。
 エゾシカの有効利用については、一日も早く行政的な方針を確立して、将来的には現状の「野獣肉の衛生指導要領」を、道の規則、条例のような法的拘束力のあるものにしていくことが必要と思われる。

エゾシカ協会ニューズレター13号(2003年7月1日発行)に収録
(C) K.Kagota 2003