一般社団法人エゾシカ協会

梶光一「エゾシカの保護管理計画と有効利用の可能性」


エゾシカの保護管理計画

 エゾシカは明治期の豪雪と乱獲で一度絶滅寸前となるまで激減したが、その後の保護政策や生息地の改変などによって、1970年代半ばには北海道東部で、1980年代には日本海側にも分布が拡大した。さらに1990年代に入ると、暖冬による積雪の減少とエゾシカの個体数増加に伴って、西部地域にも急速に分布域が拡大していった。

 エゾシカは、年率16%から20%、3年から5年で個体数が倍増する高い増加率をもっており、分布域の拡大と並行し、爆発的な増加が1990年代に北海道東部で、2000年以降には北海道西部地域で生じた。増えすぎたエゾシカは、深刻な農林業被害のみならず、天然林の樹皮剥ぎ、列車事故、交通事故等の増加をもたらした。また、最近では知床国立公園などの保護区において、自然植生に悪影響を与えるようになった。

 北海道は、エゾシカの個体数管理のために、1998年に農林業被害の軽減、絶滅回避、安定的な生息数水準の確保を目的とする「エゾシカ保護管理計画」を策定した。北海道東部地域では、個体数の増減に応じて捕獲圧を調整する「フィードバック管理」によって、個体数の削減に努めている。フィードバック管理では、大発生水準、目標水準、許容下限水準と名づけた3種類の閾値を定め、緊急減少措置、漸減措置、漸増措置、禁猟措置の4段階の捕獲圧を設け、各種のエゾシカ生息数調査から得られた最新の「個体数指数」に基づいて、捕獲圧を決めている。

 緊急減少措置によって、1998年から2004年までに47万1000頭(平均6万7000頭/年)が捕獲され、農業被害に対して1995年度から2004年度までに3000キロのネットフェンスが整備された。こうして、被害額はピーク時の50億円(1996年)から2004年には30億円を下回るようになった。しかし、一度は確実に生息数が減少したにもかかわらず、農地から排除されたシカは山林で増えつづけ、分布も全道規模までに拡大している。

 狩猟者の減少や捕獲意欲の低下、残滓処理、エゾシカの行動変化などから、害獣対策としての個体数管理には、限界に到達し、北海道は平成16年度に「非常事態宣言」を出した。平成16年度の捕獲数は狩猟期間の延長や道の直轄事業などで、かつてないほどの捕獲努力を投入して6万5000頭と前年を6000頭余り上回る捕獲を行ったものの、東部地域でのエゾシカの個体数は下げ止まって個体数回復の兆しがみられ、西部地域においても激増が続いている。

有効利用の方向性

 この危機的な状況を乗り越えるためには、エゾシカを資源としてとらえ、害獣管理を資源管理に切り替え、エゾシカの有効活用を促進していく必要がある。現在、官民ともにその動きが加速している。

 有効利用の方向性としては、エゾシカの資源管理の一環であることをまず、念頭におく必要がある。エゾシカの推定生息数を道東で20万、道西部では不明だが、道東なみの生息数と仮定すると、個体数激増を食い止めるためには、エゾシカの自然増加率分20%として最低でも年間8万頭規模の有効活用を目指す必要がある。有効活用によって、残滓処理問題や駆除コストの軽減、地域への経済効果などによって、減少を続ける狩猟者人口に歯止めをかけることができだろう。数十万頭のエゾシカの個体数管理には、狩猟システムの維持が不可欠であり、狩猟は北海道の自然産業としても貢献するだろう。

 第1段階としては、野生エゾシカの捕獲個体の流通や生体捕獲による一時的な養鹿である。これにより、食肉検査システムによる衛生管理の仕組みができる。すでに取り組みが開始している。

 第2段階としては、全道猟区制による野生エゾシカの個体数管理である。猟区は土地ごとに捕獲数を割り当て、森林管理などの土地管理と野生動物管理を一体となって進めることができ、猟区管理組合による経営によって地域に経済的な効果をもたらすだろう。北海道では西興部で先駆的な取り組みが昨年から開始された。

 今後、野生ジカは季節の楽しみのジビエとし、養鹿は安定供給の一環として、北海道の特産品としていく。エゾシカ管理計画における大発生水準は被害レベルで決定されているので、エゾシカの資源価値によって将来的には見直すことも可能となるであろう。

梶光一 氏(北海道環境科学研究センター自然環境部 主任研究員)