1.はじめに
鹿は、多くの国で野生動物の中で代表的産業動物として位置づけられている。我が国では明治時代より鹿の飼養、生体調査研究が始められているが、歴史的に宗教の影響もあって産業としての発展が遅れている。
近年、外来種が輸入され、日本各地で鹿の飼養者が増え、大型鹿牧場も出現したが、過熱現象がみられ、そのためトラブルも発生した。
養鹿は、規律ある新しい産業として進展させるねばならない。そのため、日本養鹿協会を発足して鹿の生産、利用、生態保全に関する調査といった活動を開始した。
2.日本における養鹿等の歴史と推移
年号 |
西暦 |
養鹿の歴史 |
明治5年 |
1872 |
NZ・B.Wilson氏が「日本での養鹿の基礎固めを」提言 |
明治6年 |
1873 |
日本・北海道で鹿皮生産開始 |
明治11年 |
1878 |
日本・北海道で鹿肉缶詰工場開設 生産開始 |
明治18年 |
1885 |
日本・那須青木牧場で赤鹿と日本鹿飼育開始 |
明治20年 |
1887 |
日本・宮内庁日光牧場で赤鹿と日本鹿の試験飼育開始 |
昭和47年 |
1972 |
北海道鹿追町2月野生えぞ鹿捕獲・10頭鹿から飼育開始 |
昭和56年 |
1981 |
長崎・八木氏5頭から、鹿児島・楠木氏鹿飼育開始 |
昭和58年 |
1983 |
世界畜産学会 東京会議で鹿の飼育を検討 |
昭和63年 |
1988 |
日本鹿協会発足 |
昭和64年 |
1989 |
九州大分・久住牧場・赤鹿100頭飼育開始、 |
平成2年 |
1990 |
全日本養鹿協会設立 |
平成2年 |
1990 |
農林省が、鹿を特用家畜として位置つけて研究会を開催 |
平成8年 |
1997 |
家畜伝染病法律改正により鹿も対象家畜に指定される |
平成11年 |
1999 |
エゾシカ協会設立 |
平成15年 |
2003 |
家畜飼料安全法に改定審議中(鹿が対象家畜となる予定) |
3.養鹿業界の現状
1)平成2年から全日本養鹿協会は、日本養鹿の基礎固として、下記の事業を続けている。
(1)鹿飼育実態調査(平成2年度)鹿生産物流通実態調査を実施(平成4年度)
(2)日本鹿資源保護のため、外来種の脱柵防止対策を推進(平成8年度~平成10年度)
(3)野性鹿被害対策の一貫として避妊化処理実用化モデル調査実施(平成7年~8年度)
(4)鹿の飼養管理技術に確立、衛生技術の改善、国際交流を実施(平成2年~13年)
(5)新家畜資源(肉・幼角・皮・骨等)の利用開発調査研究事業を実施(平成9~13年度)
(6)鹿生産利用技術確立調査研究事業を平成14年度から3カ年計画で事業続行中
2) 鹿飼育、業界など
1990年代頃から、村おこしや地域特産品作りを目的として、各地で鹿飼育が行われた。
また、赤鹿等外来種の輸入も始まり、大型牧場鹿飼育が出現するなど、過熱した鹿ブームが見られた。その後、ブームにともなう養鹿の「つまつき」も見られ、縮小、中止する牧場も出始めた。その結果、鹿産物の安定供給体制には到らず、試行錯誤的に推移している。養鹿のつまつきを教訓としながら、養鹿の時流は、緩慢ながら進んでいる。
4.今後の養鹿事業の展開について
1)鹿は、環境に優しく、繁殖力も旺盛で、日本の気候風土に適している動物であり、鹿全身の利用が可能である。副産物も含め、鹿には牛豚等にはない特有の成分が含有されており、新資源として期待されている。
2)森林動物といわれる鹿は、急勾配土地でも飼育が可能であり、森林のもつ多面性と資源利用とを組合せた養鹿の新技術・新生産体系を確立することにより養鹿業の新展開が可能である。
また、養鹿は、自然、環境と地域性及び飼料資源、技術条件等を考慮して、地域を限した産業として位置つけて取り組むべきではなかろうか。
3)養鹿事業を進める場合、現代社会、地域社会が抱えている課題の多面性を踏まえて、理念と規律ある事業推進が不可欠である。
養鹿をめぐる三つの理念……
(1)人と鹿との共生
<自然・社会環境の安定性・持続性を踏まえ、人と鹿の共生関係を図る>
(2)未利用資源の有効利利用
<未利用資源としての鹿の有効利用を図り、人と自然、都市と農山村との関わりを深め規律ある産業育成を追求する>
(3)保全と利用の循環化
<環境負荷を伴わない産業として位置つけ、資源利用と環境保全の共有を図る>
まとめ
有限の資源と地球環境劣化という認識を共有して、未利用資源を先端技術の活用によって新産物を創出して、地域活性化に役立てる。
(c) 丹治藤治 2004
この論文は、北海道畜産学会第59回大会(2003年9月1日~2日、網走市・東京農業大学生物産業学部)のシンポジウム「エゾシカの資源利用を考える」においておこなわれた、全日本養鹿協会専務理事・丹治藤治さんによる基調講演の要旨です。執筆者の丹治さんならびに同学会、同シンポジウムの座長を務められた増子孝義さん(東京農業大学生物産業学部)のご許可を得て、「北海道畜産学会報 第59回大会講演要旨 2003年」(北海道畜産学会)に収録された全文を掲載しています。転載をご希望の方は同学会事務局(下のリンク)にお問い合わせ下さい。