「子鹿のメメちゃん」の思い出

 撮影旅行参加の強そうな女性が、この子鹿を予想だにしていなかった優しい声で呼びました。すると子鹿はその声にこたえてひょこひょこと目の前まで寄ってきました。無垢な子鹿には人の気持ちが通じたのでしょうか。
 それにつけて一つ思い出しました。それは数年前にある飼料会社で社員が子鹿をもらってきて、社長夫人が”メメちゃん”と名づけて十勝川沿いの事務所で自由にして飼っていました。「メメちゃん」と呼ぶ、とどこからともなくぴょんぴょん跳ねてきます。付近の農家の方たちも、この可愛いバンビちゃんを可愛がってくれていました。
 しかし秋近くなって狩猟解禁近くなると、メメちゃんママは心配で夜も眠れないほどでした。それでメメちゃんの好きな餌を持ってある養鹿場に預けました。ママは週末を待ちかねて好物をもってメメちゃに会いに通っていました。

 メメちゃんは四歳を迎えて、他をぬきんでた大きな成獣になりました。鹿たちに恋の季節が来たある日、メメちゃんは飼育の世話をしていた二人の男性を突き倒したのです。除角していたので二人は一命を取り留めましたが、一人は全治三月の重症を負いました。メメちゃんは子孫を残すことが出来ずこの世を去りました。
 知る限りでは道内で過去に、人慣れしている飼いシカに二人が殺されています。野生でも保護区のように人慣れした雄シカが人を威嚇したという話を、猟友から聞きました。

 2004年7月、知床で。

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2004年夏、知床  1 2 3 4 5 6 7
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